カスハラ 対応フロー 条文例
カスハラ対応フロー・条文例:規程整備の実務ガイド
公開日 2026-09-04・更新日 2026-09-04
# カスハラ対応フロー・条文例:規程整備の実務ガイド
2026年10月1日、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(以下「労働施策総合推進法」)第33条の改正規定が施行されます。これにより、労働者1人以上を雇用するすべての事業主は、カスタマーハラスメント(カスハラ)から労働者を守るための措置を講じることが義務となります。企業規模による猶予や経過措置はありません。
この記事では、「受付→報告→事実確認→外部連携」という対応フローを規程へ落とし込む方法と、各ステップに対応する条文例を整理します。規程の初期整備を始める際の確認材料としてご活用ください。
なぜ対応フローを規程に明記するのか
カスハラ防止指針(厚生労働省告示第51号、2026年2月26日告示)は、事業主が講ずべき措置の一つとして「相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備」を求めています。体制整備の核心は、担当者が場当たり的に判断するのではなく、あらかじめ定めた手順に従って動けるようにすることです。
対応フローが規程に明記されていない場合、次のような問題が生じやすくなります。
- 担当者によって対応の質にばらつきが出る
- 記録が残らず、後日の事実確認が困難になる
- 労働者が「相談しても意味がない」と感じ、被害を抱え込む
- 行政の報告徴収・助言・指導・勧告の対象となった際に、措置の実施を説明できない
勧告に従わない場合は企業名公表の対象となり得る(労働施策総合推進法改正後第42条第2項)ため、フローの文書化は事業主にとって重要な実務上の備えです。
指針の原文は以下で確認できます(2026年9月時点)。 https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662584.pdf
対応フローの全体像
規程に落とし込む対応フローは、大きく4つのステップで構成します。
ステップ1:受付
カスハラに関する相談・申告を受け付ける窓口と方法を定めます。指針は、相談窓口をあらかじめ定めることを求めています。
規程に定めるべき事項は以下のとおりです。
- 相談窓口の設置(担当者または担当部署の明示)
- 受付方法(対面・電話・メール・書面など複数手段の確保)
- 受付記録の作成義務
- 相談者のプライバシー保護と不利益取扱いの禁止
条文例として、次のような表現が考えられます。
第○条(相談窓口)
会社は、カスタマーハラスメントに関する相談窓口を設置し、担当者を指定する。担当者は、相談を受けた場合、相談者の意向を確認したうえで、所定の相談記録票に記録しなければならない。
2 会社は、相談者が相談したことを理由として、不利益な取扱いを行ってはならない。
ステップ2:報告
受付担当者が相談内容を上位職制または対策委員会へ報告する手順を定めます。報告ラインが不明確だと、情報が担当者止まりになり、組織的な対応が遅れます。
規程に定めるべき事項は以下のとおりです。
- 報告先(直属上長・人事部門・対策委員会など)
- 報告期限(例:受付から○営業日以内)
- 報告内容の範囲(相談者の同意を得た情報の範囲)
- 緊急性の判断基準と即時エスカレーションの条件
条文例として、次のような表現が考えられます。
第○条(報告義務)
相談窓口担当者は、相談を受けた日から3営業日以内に、相談の概要を人事部門責任者へ報告しなければならない。ただし、相談者または労働者の安全に関わる緊急事態と判断した場合は、直ちに報告するものとする。
2 報告にあたっては、相談者が特定されないよう必要な配慮を行う。
ステップ3:事実確認
報告を受けた後、関係者からの聴取や記録の収集を通じて事実を確認します。指針は、事実関係の迅速かつ正確な確認を求めています。
規程に定めるべき事項は以下のとおりです。
- 事実確認の担当者または委員会の構成
- 聴取対象(相談者・行為者・目撃者・関係者)
- 記録の保存方法と保存期間
- 確認結果の判断基準(カスハラに該当するか否かの判断プロセス)
- 確認中の相談者への中間報告
条文例として、次のような表現が考えられます。
第○条(事実確認)
人事部門責任者は、報告を受けた後、速やかに事実確認を開始する。事実確認は、相談者、行為者(顧客等)との接触が可能な場合はその記録、現場の目撃者その他の関係者への聴取により行う。
2 事実確認の結果は書面に記録し、○年間保存する。
3 事実確認の担当者は、確認の進捗を相談者に適宜報告する。
ステップ4:対応措置と外部連携
事実確認の結果に基づき、労働者の保護措置と顧客等への対応を決定します。また、状況に応じて警察・弁護士・産業医などの外部機関と連携する手順を定めます。
規程に定めるべき事項は以下のとおりです。
- 労働者への保護措置(配置転換・業務変更・メンタルヘルスケアへの誘導など)
- 顧客等への対応方針(取引継続・取引制限・警告・取引終了など)
- 外部連携先の一覧と連携判断基準
- 再発防止策の策定と周知
条文例として、次のような表現が考えられます。
第○条(対応措置)
会社は、事実確認の結果に基づき、被害を受けた労働者の保護に必要な措置を講じる。措置の内容は、当該労働者の意向を尊重したうえで決定する。
2 会社は、行為者が顧客等である場合、行為の態様・程度に応じて、警告、取引の制限または取引の終了を含む対応を行うことができる。
3 会社は、行為が刑事事件に該当する可能性がある場合、警察への相談・通報を含む外部機関との連携を行う。
規程全体の構成例
対応フローを規程に落とし込む際の章立て例を示します。
- 第1章 総則(目的・定義・適用範囲)
- 第2章 禁止行為の定義(カスハラの定義と具体例)
- 第3章 事業主・管理職・労働者の責務
- 第4章 相談窓口と受付手続(ステップ1)
- 第5章 報告手続(ステップ2)
- 第6章 事実確認手続(ステップ3)
- 第7章 対応措置と外部連携(ステップ4)
- 第8章 プライバシー保護と不利益取扱いの禁止
- 第9章 再発防止と教育研修
- 附則(施行日・改廃手続)
規程のひな形は /hinagata からダウンロードできます。自社の業種・規模に合わせて条文を調整する際の出発点としてご利用ください。
カスハラの定義条文をどう書くか
規程の実効性は定義条文の精度に大きく左右されます。指針(告示第51号)は、カスハラを「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」と整理しています。
この定義を規程に取り込む際は、指針が例示する行為類型(暴行・傷害、脅迫・中傷・名誉毀損、土下座の強要、長時間の拘束、SNSへの投稿による脅し、合理的な理由のない謝罪の繰り返し要求など)を参考に、自社の業種・顧客接点の実態に即した具体例を付記することが実務上有効です。
ただし、正当なクレームや苦情はカスハラに該当しません。定義条文に「正当な権利行使に基づくクレームはこれに含まない」旨を明記することで、顧客対応の萎縮を防ぐ配慮が求められます。
求職者等へのセクシュアルハラスメントとの整合
2026年10月1日には、カスハラ対策と同時に、求職者等へのセクシュアルハラスメントに関する措置義務も施行されます。根拠は雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(男女雇用機会均等法)第13条(改正後)であり、指針は求職者等に対するセクシュアルハラスメント防止指針(厚生労働省告示第52号)です。
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662589.pdf(2026年9月時点)
求職者等へのセクシュアルハラスメントの対応フローも、カスハラと同様に受付・報告・事実確認・措置の4ステップで構成できます。ただし、対象となる行為者(自社の採用担当者・面接官等)と被害者(求職者・インターン生等)の関係がカスハラとは逆転するため、別規程または別章として整理することが実務上わかりやすくなります。
規程整備の全体像については /guide で解説しています。
規程整備後に必要な周知・研修
規程を作成するだけでは措置義務を果たしたことにはなりません。指針は、規程の周知と管理職・労働者への研修・啓発を求めています。
周知の方法としては、就業規則への添付・掲示・イントラネットへの掲載・入社時説明などが考えられます。研修では、カスハラの定義・対応フロー・相談窓口の場所を全労働者が理解できる内容とすることが重要です。
自社の規程整備状況を確認したい場合は /shindan の診断ツールをご活用ください。
よくある質問
対応フローは就業規則に含める必要がありますか?
労働基準法上、就業規則に記載が義務付けられる事項(絶対的必要記載事項・相対的必要記載事項)にカスハラ対応フローは含まれていません。ただし、指針は規程の整備と周知を求めており、就業規則の別規程として策定し、就業規則に「カスタマーハラスメント防止規程による」と参照条項を設ける方法が実務上よく用いられます。個別の就業規則の記載方法については、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
小規模事業者でも対応フローを文書化しなければなりませんか?
労働施策総合推進法第33条の改正規定は、労働者1人以上を雇用するすべての事業主を対象としており、企業規模による猶予や経過措置はありません。文書の分量や様式は事業規模に応じて簡略化できますが、受付・報告・事実確認・措置の各ステップを定めることは義務です。
顧客への対応(取引終了など)を規程に明記することは問題ありませんか?
指針は、事業主が顧客等に対して毅然とした対応を取ることを求めており、取引の制限・終了を含む対応方針を規程に定めることは指針の趣旨に沿っています。ただし、具体的な取引終了の条件や手続きは、契約内容・業種の特性によって異なるため、法務担当者や弁護士に確認することをお勧めします。
事実確認の記録はどのくらいの期間保存すればよいですか?
指針は保存期間の具体的な年数を明示していません。労働関係の記録に関する他の法令(労働基準法上の書類保存義務など)や、将来の紛争対応の観点から、実務上は3年以上の保存を検討する事業主が多いとされています。自社の状況に応じた保存期間の設定については、専門家にご相談ください。
外部連携先として警察以外にどのような機関が考えられますか?
指針は外部連携先の具体的な機関名を列挙していませんが、実務上は弁護士(法的対応の検討)、産業医・EAP(被害労働者のメンタルヘルスケア)、労働局(行政相談)、業界団体(業種特有の対応事例の共有)などが連携先として挙げられます。連携先の選定は、行為の態様・被害の程度・業種の特性に応じて判断します。 --- 一次資料(2026年9月時点) - 労働施策総合推進法(e-Gov): https://laws.e-gov.go.jp/law/341AC0000000132 - 男女雇用機会均等法(e-Gov): https://laws.e-gov.go.jp/law/347AC0000000113 - カスハラ防止指針(告示第51号): https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662584.pdf - 求職者等に対するセクシュアルハラスメント防止指針(告示第52号): https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662589.pdf --- 本記事は一般情報であり、個別の法的助言・判断ではありません。個別事案への対応や規程の作成・改定にあたっては、社会保険労務士・弁護士等の専門家にご相談ください。