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EC・通販事業者のカスハラ対応|返品・返金・配送クレームの基準整理

公開日 2026-08-20・更新日 2026-08-20

# EC・通販事業者のカスハラ対応|返品・返金・配送クレームの基準整理

EC・通販事業者にとって、返品・返金・配送に関する顧客からの申入れは日常的に発生します。その中には正当なクレームと、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(以下「労働施策総合推進法」)第33条が定めるカスタマーハラスメント(カスハラ)に該当し得る行為が混在しています。

2026年10月1日、改正労働施策総合推進法の主要部分が施行されます。これにより、従業員を1人以上雇用するすべての事業主は、カスハラから労働者を守るための措置を講じることが義務となります。企業規模による猶予や経過措置はありません。

この記事では、EC・通販業務に特有の返品・返金・配送クレームを題材に、カスハラに該当し得る行為の判断軸と、事業主が整備すべき対応基準の考え方を整理します。

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カスハラ防止義務の法的根拠

改正労働施策総合推進法第33条(2025年6月11日公布、令和7年法律第63号)は、事業主に対してカスハラ防止のための雇用管理上の措置を義務として課しています。具体的な措置内容は、2026年2月26日に告示された厚生労働省告示第51号(カスハラ防止指針)に定められています。

  • e-Gov 労働施策総合推進法(2026年8月時点): https://laws.e-gov.go.jp/law/341AC0000000132
  • カスハラ防止指針(告示51号): https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662584.pdf

「努力義務」や「望ましい取組」ではなく、事業主が履行すべき義務です。対応が不十分な場合、行政による報告徴収・助言・指導・勧告の対象となり、勧告に従わない場合は企業名公表の対象となり得ます(改正後第42条第2項)。

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EC・通販でカスハラが起きやすい場面

EC・通販事業では、顧客と対面しないぶん、チャット・メール・電話・SNSのダイレクトメッセージなど複数チャネルで問い合わせが集中します。返品・返金・配送に関する申入れは件数が多く、対応担当者が繰り返し同一顧客から接触を受けるケースも生じます。

カスハラ防止指針(告示51号)は、カスハラを「顧客等からのクレーム・言動のうち、その要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」と整理しています。

返品・返金・配送の文脈では、次のような言動が該当し得ます。

返品・返金に関する申入れ

  • 返品ポリシーの範囲外であることを説明しても、長時間にわたって同じ要求を繰り返す
  • 「全額返金しなければSNSで拡散する」など、脅迫的な言動を伴う要求
  • 担当者個人を名指しして侮辱する言葉を使う
  • 商品の開封・使用後に「未使用だ」と虚偽の申告をして返品を強要する

配送トラブルに関する申入れ

  • 配送業者の遅延について、EC事業者の担当者に対して長時間の電話で怒鳴り続ける
  • 「今すぐ自宅まで持ってこい」など、業務上の合理的な範囲を超えた要求
  • 配送状況の問い合わせを1日に何十回も繰り返し、担当者の業務を著しく妨害する

これらはいずれも、要求の内容そのものではなく「手段・態様」が問題となる点が重要です。返品・返金・再配送を求めること自体は正当な権利行使であり、その事実だけでカスハラとは判断できません。

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正当なクレームとカスハラの判断軸

EC・通販事業者が対応基準を整備するうえで最初に必要なのは、正当なクレームとカスハラを区別する判断軸を社内で共有することです。

要求内容の妥当性を確認する

返品・返金・再配送の要求が、自社の返品ポリシー・消費者契約法・特定商取引法の範囲内かどうかを確認します。範囲内であれば、速やかに対応することが顧客対応の基本です。範囲外であれば、その理由を丁寧に説明し、代替案を提示します。

手段・態様の社会通念上の相当性を確認する

要求内容が妥当であっても、その伝え方が社会通念上不相当であればカスハラに該当し得ます。判断の目安として、次の点を確認します。

  • 同一内容の連絡が短時間に繰り返されていないか
  • 担当者への侮辱・脅迫的な言動が含まれていないか
  • 要求の実現手段として、SNS拡散・口コミ投稿・行政機関への虚偽申告などを示唆していないか
  • 対応時間が著しく長時間に及んでいないか

記録を残す

チャット・メールは自動的に記録が残りますが、電話対応については通話録音の仕組みを整備することが対応基準の実効性を高めます。記録は、後日の事実確認・エスカレーション・行政対応の基礎資料となります。

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事業主が整備すべき措置の概要

カスハラ防止指針(告示51号)は、事業主が講じるべき措置として大きく次の柱を示しています。

事業主の方針の明確化と周知・啓発

カスハラを許容しないという方針を就業規則や社内規程に明記し、全従業員に周知します。EC・通販事業では、カスタマーサポート担当者だけでなく、物流・倉庫・システム担当者も顧客と接触する場合があるため、対象を広く設定することが重要です。

また、顧客向けの利用規約や問い合わせページに、カスハラに該当する行為への対応方針(対応を打ち切る場合があること等)を明示することも、方針の明確化の一環として有効です。

相談体制の整備

担当者がカスハラを受けた場合に相談できる窓口を設けます。チャット・メール対応では、担当者が一人で抱え込まずにエスカレーションできるフローを明確にします。電話対応では、上長が代わって対応できる体制を整えます。

相談窓口は、内部窓口・外部窓口のいずれでも構いません。重要なのは、担当者が「相談してよい」と認識できる環境を整えることです。

被害を受けた労働者へのケア

カスハラを受けた担当者に対して、事後のフォローアップを行います。繰り返し同一顧客から接触を受けている場合は、担当者を交代させることも選択肢の一つです。

カスハラ対応の記録と事後検証

対応した事案を記録し、定期的に内容を確認することで、対応基準の見直しや研修内容の改善につなげます。

対応基準の雛形や規程の初期整備を始める際は、カスハラシールドの書式・雛形ページを確認材料にしてください。

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EC・通販特有の論点:チャネル別の対応設計

EC・通販事業では、顧客との接点が複数チャネルにまたがるため、チャネルごとの対応設計が必要です。

チャット・メール

文字による記録が残るため、事実確認がしやすい反面、深夜・早朝を問わず送信されるケースがあります。対応時間帯を明示し、時間外の問い合わせには自動返信で対応時間を案内する設計が有効です。

電話

リアルタイムの対応が求められるため、担当者への負荷が高くなりやすいチャネルです。通話録音の整備、長時間対応の上限設定、エスカレーションフローの明確化が重要です。

SNSのダイレクトメッセージ・コメント

公開コメントへの対応は、他の顧客の目にも触れるため、対応内容が拡散するリスクがあります。公開の場での謝罪や過剰な対応は、他の顧客からの同様の要求を誘発する可能性があります。対応方針を社内で統一しておくことが重要です。

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対応フローの初期整備の進め方

対応基準の整備を始める際の手順として、次のステップが参考になります。

まず、現状の返品・返金・配送クレームの対応フローを文書化します。次に、カスハラ防止指針(告示51号)の内容と照らし合わせ、不足している要素を確認します。その後、就業規則・社内規程・顧客向け利用規約への反映を検討します。

自社の対応状況を確認する際は、カスハラシールドの診断ページを確認材料にしてください。また、措置義務の全体像を把握するには、カスハラシールドのガイドページも参照してください。

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よくある質問

返品ポリシーの範囲内の要求でも、カスハラになることはありますか?

要求の内容が返品ポリシーの範囲内であっても、その伝え方が社会通念上不相当であればカスハラに該当し得ます。たとえば、返品ポリシーの範囲内の返金を求めながら、担当者を侮辱する言葉を使ったり、1日に何十回も電話をかけたりする行為は、手段・態様の問題としてカスハラの判断対象となります。

小規模なEC事業者にも2026年10月1日の義務は適用されますか?

適用されます。改正労働施策総合推進法第33条に基づくカスハラ防止措置義務は、従業員を1人以上雇用するすべての事業主が対象です。企業規模による猶予や経過措置はありません。 (e-Gov 労働施策総合推進法 2026年8月時点: https://laws.e-gov.go.jp/law/341AC0000000132)

顧客向けの利用規約にカスハラ対応方針を記載することは必要ですか?

カスハラ防止指針(告示51号)は、顧客向けへの方針明示を事業主の措置の一環として示しています。義務の内容は社内の方針明確化・周知・相談体制整備等が中心ですが、顧客向けへの明示は対応の実効性を高めるうえで有効です。 (カスハラ防止指針 告示51号 2026年8月時点: https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662584.pdf)

カスハラと判断した場合、対応を打ち切ることはできますか?

カスハラ防止指針(告示51号)は、カスハラに該当する行為に対して毅然と対応することを事業主の方針として明確化することを求めています。対応を打ち切る場合の基準・手順を社内規程に定め、担当者が一人で判断しなくて済む体制を整えることが重要です。個別事案の判断については、法律の専門家にご相談ください。

措置が不十分な場合、どのような行政対応がありますか?

行政による報告徴収・助言・指導・勧告の対象となります。勧告に従わない場合は企業名公表の対象となり得ます(改正後第42条第2項)。なお、過料(20万円以下)は報告義務違反(虚偽報告・報告拒否)にのみ適用され、措置義務違反そのものへの罰則ではありません。 --- 本記事は2026年8月時点の法令・告示に基づく一般情報であり、個別の法的助言・判断ではありません。個別事案への対応や規程の作成・改定については、社会保険労務士・弁護士等の専門家にご相談ください。