医療機関 カスハラ 規程 ひな形
医療機関のカスハラ規程ひな形|応召義務と職員保護の整理
公開日 2026-09-01・更新日 2026-09-01
# 医療機関のカスハラ規程ひな形|応召義務と職員保護の整理
医療機関がカスタマーハラスメント(カスハラ)規程を整備するうえで最も悩ましいのが、「応召義務があるのに患者を断れるのか」という問いです。結論から述べると、応召義務と職員保護のための規程整備は矛盾しません。両者を正しく整理したうえで規程の初期整備を始めることが、2026年10月1日の施行に向けた実務の出発点になります。
本記事では、改正労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(以下「労働施策総合推進法」)第33条(改正後)および厚生労働省告示第51号(カスハラ防止指針)の内容を踏まえ、医療機関特有の論点を整理します。
---
改正法の概要と医療機関への適用
義務の対象と施行日
労働施策総合推進法第33条(改正後)に基づくカスハラ防止措置は、労働者を1人以上雇用するすべての事業主に適用されます。企業規模による猶予や経過措置はなく、診療所・クリニック・病院・介護併設施設を問わず、医療機関はすべて対象です。
主要部分の施行日は2026年10月1日です。改正法の公布日は2025年6月11日(令和7年法律第63号)、カスハラ防止指針(告示第51号)の告示日は2026年2月26日です。
- e-Gov 労働施策総合推進法(2026年9月時点): https://laws.e-gov.go.jp/law/341AC0000000132
- 厚生労働省告示第51号(カスハラ防止指針): https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662584.pdf
措置義務の内容
告示第51号が示す事業主の措置義務は、大きく次の柱で構成されています。
- 方針の明確化と周知・啓発
- 相談体制の整備
- 事案発生後の迅速かつ適切な対応
- プライバシー保護と不利益取扱いの禁止
これらはいずれも義務であり、任意の取組ではありません。規程を整備しないまま放置し、行政から勧告を受けてもなお従わない場合は、勧告に従わない場合は企業名公表の対象となり得ます(改正後第42条第2項)。また、報告義務に対して虚偽報告や報告拒否をした場合は20万円以下の過料が適用されます。
---
応召義務とカスハラ規程の関係
応召義務の法的位置づけ
医師法第19条第1項は、診療に従事する医師が診察治療の求めがあった場合に正当な事由なく拒否できないと定めています。この「応召義務」は医療機関が患者対応を拒否することへの制約であり、職員保護のための内部規程整備とは直接の矛盾関係にありません。
厚生労働省は2019年に「応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について」(医政発1225第4号)を通知し、診療の継続が困難な状況や暴力・ハラスメントが生じている場合の対応について考え方を示しています。この通知は、暴力や著しい迷惑行為が継続する場合に診療を断ることが正当な事由に該当し得ることを示唆しています。
ただし、個別事案における応召義務の解釈は法的判断を伴うため、本記事は一般的な整理にとどめます。具体的な判断は顧問弁護士や医療法務の専門家にご確認ください。
規程整備が応召義務と矛盾しない理由
カスハラ規程は「患者を拒否するための規程」ではなく、「職員が安全に業務を継続できる環境を整えるための規程」です。規程の目的を正しく設定することで、応召義務との整合性を保てます。
具体的には、次の点を規程の目的条項に明記することが考えられます。
- 職員の就業環境を保護し、安全かつ継続的な医療提供を支えること
- カスハラ行為に対して組織として毅然と対応する方針を示すこと
- 患者・来院者との関係において相互尊重を基本とすること
---
医療機関向け規程の構成要素
規程に盛り込む主要項目
告示第51号の内容を踏まえ、医療機関のカスハラ規程には以下の項目を含めることが求められます。
目的・基本方針 職員の就業環境保護と安全な医療提供の両立を目的として明記します。
カスハラの定義 告示第51号は、カスハラを「顧客等からの著しい迷惑行為」と位置づけ、暴言・暴力・過度なクレーム・不当な要求・長時間拘束・SNSへの誹謗中傷などを例示しています。医療機関では、診察室での暴力行為、受付への繰り返しの威圧的クレーム、オンライン上での職員個人への攻撃なども該当し得ます。
相談・報告体制 職員が安心して相談できる窓口(院内担当者または外部相談窓口)を設け、相談者のプライバシーを保護する旨を明記します。
対応手順 事案発生時の初動対応(記録・報告・エスカレーション)、複数人対応の原則、警察・弁護士への連携判断基準を定めます。
不利益取扱いの禁止 相談・報告をした職員に対して不利益な取扱いをしないことを明記します。
再発防止・研修 定期的な研修実施と事案の振り返りによる規程の見直しを定めます。
医療機関特有の追加検討事項
医療機関では、以下の点を規程または運用マニュアルで補足することが実務上有用です。
診療継続と職員交代の判断基準 カスハラ行為が発生した場合に、担当職員を交代させる判断基準と手順を定めておくことで、個々の職員が一人で抱え込む状況を防ぎます。
記録の保存 カスハラ事案の記録(日時・内容・対応経緯)を保存する手順を定めます。記録は行政対応や法的対応の際の根拠となります。
外来・入院・救急の場面別対応 外来受付、入院病棟、救急対応では状況が異なるため、場面ごとの対応フローを別紙マニュアルとして整備することが考えられます。
患者家族・同行者への対応 カスハラの行為者は患者本人に限らず、家族や同行者である場合もあります。規程の対象範囲に「患者の家族その他の関係者」を含めることを検討してください。
---
求職者等へのセクシュアルハラスメントへの対応
医療機関は採用活動を継続的に行う事業主でもあります。2026年10月1日施行の改正男女雇用機会均等法第13条(改正後)は、求職者等へのセクシュアルハラスメントに対する措置義務を事業主に課しています。根拠指針は厚生労働省告示第52号(求職者等に対するセクシュアルハラスメント防止指針)です。
- e-Gov 男女雇用機会均等法(2026年9月時点): https://laws.e-gov.go.jp/law/347AC0000000113
- 厚生労働省告示第52号(求職者等に対するセクシュアルハラスメント防止指針): https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662589.pdf
医療機関では、看護師・医療事務・介護職員などの採用面接の場面が対象となります。カスハラ規程とは別に、求職者等へのセクシュアルハラスメントに関する規程(求職者等セクシュアルハラスメント防止規程)を整備するか、既存のセクシュアルハラスメント防止規程を改正して求職者等を対象に含める対応が求められます。
---
ひな形を活用した初期整備の進め方
規程の初期整備を始めるにあたり、ひな形(テンプレート)は出発点として有用です。ただし、ひな形はあくまで構成の参考であり、自院の規模・診療科・雇用形態・既存規程との整合性を確認したうえで内容を調整する必要があります。
カスハラシールドでは、医療機関を含む事業主向けの規程ひな形を提供しています。まずはひな形ページ(/hinagata)から構成を確認し、自院の状況に照らして検討を進めてください。
規程整備の全体的な流れや優先順位についてはガイドページ(/guide)で整理しています。また、自院の対応状況を確認したい場合は診断ツール(/shindan)もご活用ください。
---
整備スケジュールの目安
2026年10月1日の施行に向けて、以下のステップで進めることが考えられます。
ステップ1:現状確認 既存の就業規則・ハラスメント防止規程にカスハラに関する記載があるか確認します。
ステップ2:規程の草案作成 ひな形を参考に、自院の実態に合わせた草案を作成します。
ステップ3:専門家への確認 草案を顧問弁護士や社会保険労務士に確認してもらいます。本記事は一般情報の提供を目的としており、個別の規程作成・添削は行いません。
ステップ4:職員への周知・研修 規程を制定したうえで、全職員への周知と研修を実施します。
ステップ5:相談窓口の設置・運用開始 相談窓口の担当者を決め、運用を開始します。
---
よくある質問
クリニックのような小規模医療機関も対象になりますか?
はい、対象です。改正労働施策総合推進法第33条(改正後)は、労働者を1人以上雇用するすべての事業主を対象としており、企業規模による猶予や経過措置はありません。院長1人と受付スタッフ1人のクリニックであっても、2026年10月1日の施行日から措置義務が生じます。
応召義務があるため、カスハラ患者への対応を規程で制限することはできないのでしょうか?
カスハラ規程は診療拒否を定めるものではなく、職員の就業環境を保護するための組織的対応手順を定めるものです。応召義務の解釈(暴力・ハラスメントが正当な事由に該当するかどうか)は個別の法的判断を伴うため、具体的な判断は顧問弁護士にご確認ください。本記事は一般情報の提供にとどまります。
既存のハラスメント防止規程にカスハラを追記するだけで足りますか?
既存規程への追記は一つの方法です。ただし、カスハラは職員間のハラスメントと異なり、行為者が外部の患者・家族・来院者である点が特徴です。対応手順や相談体制の内容が既存規程と整合しているか確認し、必要に応じて別規程として整備することも検討してください。
規程を整備しなかった場合、どのような不利益がありますか?
行政(都道府県労働局)から報告を求められた際に虚偽報告や報告拒否をした場合は20万円以下の過料が適用されます。また、措置義務への対応が不十分として勧告を受け、それに従わない場合は、勧告に従わない場合は企業名公表の対象となり得ます(改正後第42条第2項)。
求職者等へのセクシュアルハラスメントの規程は、カスハラ規程と一緒に整備できますか?
根拠法令が異なります。カスハラは労働施策総合推進法第33条(改正後)・告示第51号、求職者等へのセクシュアルハラスメントは男女雇用機会均等法第13条(改正後)・告示第52号(求職者等に対するセクシュアルハラスメント防止指針)が根拠です。規程を一体化する場合は、それぞれの根拠法令と対象・措置内容を明確に区別して記載する必要があります。 --- 本記事は2026年9月時点の法令・告示に基づく一般情報であり、個別の法的助言・判断ではありません。規程の作成・改定にあたっては、顧問弁護士または社会保険労務士にご相談ください。