カスハラ 相談窓口 模擬対応 訓練
カスハラ相談窓口の模擬対応訓練:進め方と実践ポイント
公開日 2026-10-03・更新日 2026-10-03
# カスハラ相談窓口の模擬対応訓練:進め方と実践ポイント
相談窓口担当者が模擬対応訓練を事前に行うことで、実際のカスタマーハラスメント(カスハラ)相談が発生したときに落ち着いて対応できる体制を整えられます。2026年10月1日に施行された改正労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(以下「労働施策総合推進法」)第33条および厚生労働省告示第51号(カスハラ防止指針)は、全事業主に相談体制の整備を義務として求めています。本記事では、その相談窓口担当者が実施すべき模擬対応訓練の設計から振り返りまでを順を追って説明します。
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なぜ模擬対応訓練が必要なのか
相談窓口は、カスハラ被害を受けた労働者が最初に頼る場所です。担当者が対応手順を頭で理解していても、実際の場面では動揺したり、聞くべき情報を聞き漏らしたりすることがあります。模擬対応訓練は、こうした実践上のギャップを事前に洗い出し、担当者が自信を持って相談者に向き合えるようにするための取り組みです。
カスハラ防止指針(告示51号)は、相談窓口の担当者が相談内容や状況に応じて適切に対応できるよう、あらかじめ対応マニュアルを整備し、担当者への研修を実施することを求めています。模擬対応訓練はその研修の中核に位置づけられます。
参考:厚生労働省告示第51号(カスハラ防止指針) https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662584.pdf (2026年10月時点)
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訓練設計の前に確認すること
相談窓口の役割と権限を明確にする
模擬対応を設計する前に、自社の相談窓口が担う役割と権限の範囲を整理してください。相談窓口は事実確認や最終判断を行う場ではなく、相談者の話を丁寧に聴き、必要な情報を収集し、適切な担当部署や管理職につなぐ「入口」です。この役割の境界を担当者が理解していないと、模擬訓練のシナリオ設計も曖昧になります。
自社の対応フローや規程の整備状況を確認したい場合は、カスハラシールドのガイドを参考にしてください。
対応マニュアルの有無を確認する
模擬対応訓練は、対応マニュアルが存在することを前提に行います。マニュアルがまだない場合は、訓練の前に最低限の対応手順(受付→傾聴→情報収集→記録→エスカレーション)を文書化してください。マニュアルのひな形については規程・ひな形ページを参照してください。
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模擬対応訓練の設計ステップ
ステップ1:訓練の目的と到達目標を設定する
訓練を始める前に「この訓練で担当者に何ができるようになってほしいか」を明確にします。例として次のような到達目標が考えられます。
- 相談者の話を遮らずに最後まで聴くことができる
- カスハラの事実確認に必要な情報(日時・場所・行為の内容・関係者)を漏れなく収集できる
- 相談者に対して二次被害を与える言動を避けられる
- 記録用紙に必要事項を正確に記入できる
- エスカレーションの判断基準に従って適切な担当者に引き継げる
到達目標が具体的であるほど、訓練後の評価がしやすくなります。
ステップ2:シナリオを作成する
シナリオは実際に起こりうる状況を想定して作成します。カスハラの態様は多様であるため、複数のシナリオを用意することが望ましいです。シナリオには次の要素を含めてください。
- 相談者の属性(正社員・パートタイム労働者・派遣労働者など)
- カスハラの態様(暴言・長時間拘束・過度なクレームの繰り返しなど)
- 相談者の感情状態(冷静・動揺・怒り・泣いているなど)
- 相談の経緯(初回相談・再相談・匿名希望など)
シナリオを複数用意する際は、難易度を段階的に設定すると効果的です。最初は比較的整理された情報を持つ相談者のシナリオから始め、徐々に感情的な相談者や情報が断片的なケースに移行します。
ステップ3:役割を割り当てる
模擬対応訓練には最低3つの役割が必要です。
- 相談者役:シナリオに沿って相談を持ち込む
- 担当者役:相談窓口の担当者として対応する
- 観察者役:チェックリストを用いて対応を評価する
観察者役は訓練後のフィードバックを担うため、評価の視点を事前に共有しておくことが重要です。
ステップ4:チェックリストを準備する
観察者が評価に使うチェックリストを事前に作成します。チェック項目の例を以下に示します。
- 相談者の話を最後まで聴いたか
- 相談者の感情に寄り添う言葉かけができたか
- 事実確認に必要な情報(日時・場所・行為・関係者)を収集したか
- 相談者を責めるような発言をしなかったか
- 相談内容の秘密保持について説明したか
- 次のステップ(エスカレーション先・対応の流れ)を相談者に伝えたか
- 記録用紙に必要事項を記入したか
チェックリストは「できた/できなかった」の二択ではなく、「十分にできた/部分的にできた/できなかった」の三段階評価にすると、フィードバックの精度が上がります。
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訓練の実施手順
事前説明(10〜15分)
訓練の目的・シナリオの概要・役割・評価基準を参加者全員に説明します。担当者役の参加者には「実際の相談と同じ気持ちで臨む」よう伝え、シナリオの詳細は事前に渡さないことで緊張感を保ちます。相談者役と観察者役にはシナリオとチェックリストを渡します。
模擬対応の実施(15〜20分)
シナリオに沿って模擬対応を行います。観察者はチェックリストに記録しながら対応を観察します。途中で担当者役に助言を与えることは避け、最後まで通して実施します。
振り返り(20〜30分)
模擬対応終了後、次の順序で振り返りを行います。
まず担当者役が自己評価を述べます。「うまくできたと感じた点」「難しかった点」「次回改善したい点」を自分の言葉で話すことで、気づきが深まります。
次に相談者役が感想を述べます。「担当者の対応で安心できた点」「不安を感じた点」を相談者の視点から伝えます。
最後に観察者がチェックリストをもとにフィードバックします。良かった点を先に伝え、改善点は具体的な言動を指摘します。「〇〇という発言のとき、相談者役が表情を曇らせていました」のように、観察した事実に基づいて伝えることが重要です。
改善点の整理と次回訓練への反映
振り返りで出た改善点を文書化し、対応マニュアルや次回のシナリオに反映します。訓練は一度で終わらせず、定期的に繰り返すことで担当者のスキルが定着します。
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訓練で特に注意すべきポイント
二次被害につながる言動を意識する
相談窓口担当者が意図せず相談者を傷つける「二次被害」は、訓練で重点的に扱うべきテーマです。「それはあなたにも問題があったのでは」「もう少し我慢できなかったのですか」といった発言は、相談者の信頼を損ない、その後の相談を妨げます。チェックリストに二次被害につながる言動の項目を明示的に含めてください。
秘密保持の説明を忘れない
相談内容が本人の同意なく関係者に漏れることは、相談者の不利益につながります。担当者が「相談内容は秘密を守ります」と明確に伝えることを、訓練の中で習慣化してください。
記録の正確性を確認する
相談内容の記録は、その後の事実確認や対応の根拠となります。模擬対応の中で記録用紙への記入も実際に行い、必要事項が漏れなく記入できているかを観察者が確認します。
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訓練の頻度と対象者
訓練の頻度は、担当者の経験や相談件数の状況によって異なりますが、少なくとも年に一度は実施することが望ましいです。また、担当者が交代した場合や、新たなカスハラの態様が社内で確認された場合には、追加で実施することを検討してください。
対象者は相談窓口の担当者に限らず、担当者の上長や、エスカレーション先となる管理職も訓練に参加することで、組織全体の対応力が高まります。
自社の相談体制の整備状況を確認したい場合は、カスハラシールドの診断ツールをご活用ください。
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法的根拠の確認
カスハラ対策の義務は、2025年6月11日に公布された令和7年法律第63号による改正後の労働施策総合推進法第33条に基づきます。施行日は2026年10月1日です。カスハラ防止指針(告示51号)は2026年2月26日に告示されています。
e-Gov 労働施策総合推進法(2026年10月時点) https://laws.e-gov.go.jp/law/341AC0000000132
厚生労働省告示第51号(カスハラ防止指針)(2026年10月時点) https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662584.pdf
なお、求職者等へのセクシュアルハラスメントについては、改正後の雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(男女雇用機会均等法)第13条および求職者等に対するセクシュアルハラスメント防止指針(告示52号)が根拠となります。
e-Gov 男女雇用機会均等法(2026年10月時点) https://laws.e-gov.go.jp/law/347AC0000000113
厚生労働省告示第52号(求職者等に対するセクシュアルハラスメント防止指針)(2026年10月時点) https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662589.pdf
これらはいずれも全事業主に対する義務であり、任意の取り組みではありません。勧告に従わない場合は企業名公表の対象となり得ます。
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よくある質問
模擬対応訓練は外部の専門家に依頼しなければなりませんか?
外部専門家への依頼は必須ではありません。社内の担当者だけで実施することも可能です。ただし、社内だけで行う場合は評価が甘くなりやすいため、チェックリストを事前に整備し、観察者役が客観的に記録することが重要です。外部の研修機関や社会保険労務士に依頼することで、より客観的なフィードバックが得られる場合もあります。
相談窓口担当者が一人しかいない場合、どのように訓練を実施すればよいですか?
担当者が一人の場合でも、他部署の社員に相談者役や観察者役を依頼することで訓練を実施できます。人事部門や総務部門の担当者、または管理職に協力を求めることを検討してください。
模擬対応訓練の記録はどのように保管すればよいですか?
訓練の実施日・参加者・シナリオの概要・チェックリストの評価結果・振り返りで出た改善点を文書化し、保管してください。行政機関から相談体制の整備状況について確認を求められた際に、訓練の実施記録が対応の根拠となります。保管期間については、自社の文書管理規程に従ってください。
カスハラの相談と、求職者等へのセクシュアルハラスメントの相談は、同じ窓口で受け付けてよいですか?
同一の窓口で受け付けること自体は否定されていませんが、それぞれ根拠法令と指針が異なります。カスハラは労働施策総合推進法第33条およびカスハラ防止指針(告示51号)、求職者等へのセクシュアルハラスメントは男女雇用機会均等法第13条および求職者等に対するセクシュアルハラスメント防止指針(告示52号)が根拠です。担当者は両者の違いを理解した上で対応できるよう、それぞれの訓練シナリオを用意することが望ましいです。
訓練を実施しただけで法的な義務を果たしたことになりますか?
訓練の実施は相談体制整備の一部です。カスハラ防止指針(告示51号)が求める措置は、相談窓口の設置・周知・担当者の研修・対応マニュアルの整備・相談後の事実確認と対応・再発防止など複数にわたります。訓練はその中の研修に相当する取り組みであり、他の措置と組み合わせて初期整備を進めることが必要です。 --- 本記事は一般情報であり、個別の法的助言・判断ではありません。具体的な対応については、社会保険労務士や弁護士などの専門家にご相談ください。