カスハラ 対応 打ち切り基準
カスハラ対応の打ち切り基準|警告・責任者交代・終話の運用手順
公開日 2026-09-07・更新日 2026-09-07
# カスハラ対応の打ち切り基準|警告・責任者交代・終話の運用手順
カスハラ対応を打ち切る判断基準は、「どの行為が何回続いたら、誰が、どの手順で対応を終了するか」をあらかじめ文書化しておくことが出発点です。2026年10月1日に施行される改正労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(以下「労働施策総合推進法」)第33条は、全事業主に対してカスタマーハラスメント(カスハラ)への対応体制の整備を義務として課しています。打ち切り基準の明文化は、その義務を果たすうえで欠かせない要素の一つです。
この記事では、警告・責任者交代・終話・取引終了という段階ごとに、実務で参照できる判断の枠組みを整理します。個別事案の法的判断は専門家にご確認ください。
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なぜ打ち切り基準を事前に定めるのか
基準がないと現場が判断できない
カスハラ対応で最も多い現場の困りごとは「どこまで対応し続けるべきか分からない」という点です。基準がなければ、担当者は顧客の要求が続く限り対応を続けざるを得ないと感じてしまいます。その結果、長時間の電話対応、繰り返しのクレーム訪問、過剰な謝罪といった状況が生まれ、労働者の心身に深刻な影響を与えます。
厚生労働省が2026年2月26日に告示した告示第51号(カスハラ防止指針)は、事業主が講ずべき措置として「被害を受けた労働者への配慮」「再発防止のための取組」とともに、カスハラに対する「適切な対応のための体制整備」を求めています。打ち切り基準の策定は、この体制整備の中核をなします。 https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662584.pdf
基準の明文化が労働者保護につながる
打ち切り基準を就業規則や対応マニュアルに明記することで、担当者は「会社が定めたルールに従って対応を終了する」という根拠を持てます。これは担当者個人が「対応を打ち切った」という心理的負担を軽減し、組織として毅然とした対応を取るための基盤になります。
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打ち切り基準を構成する4つの段階
打ち切りは一度で行うのではなく、段階を踏むことで対応の正当性を記録に残しやすくなります。以下の4段階を参考に、自社の業種・規模に合わせた基準を初期整備してください。
第1段階:警告
警告は「この行為は対応できない」という事実を顧客に明確に伝えるステップです。警告なしに突然対応を打ち切ると、顧客から「説明もなく一方的に切られた」と主張される余地が生まれます。
警告を行う判断基準の例として、次のような行為が一定時間・一定回数継続した場合が考えられます。
- 怒鳴る、罵倒する、侮辱的な言葉を繰り返す
- 同一内容の要求を合理的な説明後も繰り返す
- 担当者の個人情報(氏名・住所・連絡先)を執拗に求める
- 長時間(例:1回の接触で60分超)にわたり拘束する
警告の文言は「現在のご要望にはお応えできません。このままお話を続けることが難しい状況です」のように、事実を述べる形にします。謝罪の言葉を重ねると、要求が正当であるという誤解を与えかねないため注意が必要です。
警告は口頭だけでなく、日時・内容・担当者名を記録に残すことが重要です。記録は後の段階での判断根拠になります。
第2段階:責任者交代
警告後も行為が継続する場合、担当者から責任者(上長・管理職)へ対応を交代します。責任者交代には二つの意味があります。一つは「組織として対応している」という姿勢を示すこと、もう一つは担当者を継続的な精神的負荷から切り離すことです。
責任者交代を行う判断基準の例として、次の状況が考えられます。
- 警告後も同一の不当行為が継続している
- 担当者が明らかに動揺・疲弊している
- 顧客が「上の者を出せ」と要求している(ただし、この要求自体が不当な場合もある)
責任者が対応を引き継ぐ際も、同じ警告基準を適用します。責任者が交代したからといって要求を受け入れる必要はなく、「先ほどの担当者と同様の対応になります」と明示することが重要です。
責任者交代後も行為が継続する場合は、次の段階に進む判断を責任者が行います。この判断を担当者に委ねないことが、組織的対応の要点です。
第3段階:終話・退去要請
電話対応であれば通話を終了し、対面対応であれば退去を求めます。これが「打ち切り」の中心的な行為です。
終話・退去要請を行う判断基準の例として、次の状況が考えられます。
- 責任者交代後も不当行為が継続している
- 脅迫・暴力・器物損壊など刑事事案に発展し得る行為が発生した
- 担当者・責任者の安全が脅かされている
終話の際は「これ以上の対応は難しいため、本日の対応を終了します」と告げてから電話を切ります。一方的に無言で切るのではなく、終了の意思を伝えることで記録上の根拠が明確になります。
対面での退去要請は「お引き取りください」と明確に伝え、応じない場合は警察への通報を検討します。退去要請の事実と時刻を記録してください。
終話・退去要請の後は、担当者・責任者の状態を確認し、必要に応じてメンタルヘルス支援につなぐことも体制整備の一部です。
第4段階:取引・サービス提供の終了
同一の顧客から繰り返しカスハラが発生する場合、取引やサービス提供そのものを終了することを検討します。これは最終的な打ち切りであり、慎重な判断が必要です。
取引終了を検討する判断基準の例として、次の状況が考えられます。
- 過去に複数回の警告・終話を行ったにもかかわらず同様の行為が繰り返されている
- 刑事事案として警察に相談・通報した経緯がある
- 担当者が当該顧客への対応を理由に休職・離職を余儀なくされた
取引終了の通知は書面で行い、理由を明記します。「当社の定める対応基準に照らし、今後のサービス提供が困難と判断しました」という形で、感情的な表現を避けた文書にします。
取引終了の判断は、担当者・責任者だけでなく、経営層または法務担当者を含む複数名で行うことが望ましいです。
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打ち切り基準を機能させるための記録管理
記録すべき項目
打ち切り基準は、記録と一体で機能します。記録がなければ、後から「そのような対応はなかった」と主張された場合に反論が難しくなります。記録すべき項目の例を以下に示します。
- 日時(開始・終了)
- 対応者氏名・役職
- 顧客の言動の具体的な内容(できる限り逐語的に)
- 警告・交代・終話を行った時刻と理由
- 対応後の担当者の状態
記録は対応終了後できるだけ速やかに作成し、所定のフォルダ・システムに保存します。記録の保存期間も規程に明記しておくことを検討してください。
記録の共有範囲
記録は担当者だけが保管するのではなく、責任者・人事・法務など複数の部署がアクセスできる形で管理します。同一顧客から繰り返し問い合わせがある場合、過去の記録を参照することで初期段階から適切な対応を取ることができます。
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業種別に考慮すべき点
電話・コールセンター対応
電話対応では、終話の判断が担当者個人に委ねられやすい環境です。「何分経過したら責任者に交代する」「警告後○分以内に行為が継続したら終話する」という時間基準を設けることで、担当者が迷わず行動できます。
通話録音は記録管理の観点から有効ですが、録音の事実を顧客に告知する運用が一般的です。録音の保存・利用に関するルールも規程に含めることを検討してください。
対面・店舗対応
対面では、顧客が退去しない場合の対応が課題になります。「退去要請後○分以内に応じない場合は警察に通報する」という基準を設け、その判断を現場の担当者ではなく責任者が行う体制にすることが重要です。
複数のスタッフが対応できる体制を整え、担当者が一人で対応し続けなくて済む環境を作ることも体制整備の一部です。
訪問・出張サービス
訪問先でカスハラが発生した場合、担当者が一人でいることが多く、その場での判断が難しい状況になりがちです。「訪問先でこの行為が発生したら即時退去する」という基準を明確にし、退去後に責任者に報告する手順を定めておくことが重要です。
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2026年10月1日施行に向けた初期整備の進め方
労働施策総合推進法第33条に基づくカスハラ対応の義務は、2026年10月1日に施行されます(2026年9月時点)。対象は労働者1人以上のすべての事業主であり、企業規模による猶予や経過措置はありません。
e-Gov 労働施策総合推進法(2026年9月時点) https://laws.e-gov.go.jp/law/341AC0000000132
厚生労働省告示第51号(カスハラ防止指針、2026年9月時点) https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662584.pdf
初期整備として取り組むべき事項を以下に整理します。
- 打ち切り基準を含む対応マニュアルの作成
- 就業規則または別規程へのカスハラ対応方針の明記
- 責任者・担当者への研修の実施
- 記録管理の仕組みの整備
- 相談窓口の設置と周知
対応方針のひな形や規程例については カスハラシールド ひな形ページ を参考にしてください。自社の対応体制の現状を確認したい場合は カスハラシールド 診断ページ もご活用いただけます。
義務の全体像や対応体制の整備方法については カスハラシールド ガイド で詳しく解説しています。
なお、勧告に従わない場合は企業名公表の対象となり得ることが、改正後の労働施策総合推進法第42条第2項に定められています。
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よくある質問
警告は何回行えばよいですか?
告示第51号(カスハラ防止指針)は警告の回数を具体的に定めていません。「1回の警告後に終話する」「同一接触内で2回警告する」など、自社の業種・対応形態に合わせて規程に明記することが重要です。回数よりも「警告を行った事実と時刻を記録に残す」ことが実務上の要点です。 https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662584.pdf
打ち切り基準は就業規則に書かなければなりませんか?
就業規則への記載は義務の一形態ですが、別途対応マニュアルや規程として整備する方法もあります。重要なのは、基準が文書化され、労働者に周知されていることです。就業規則の改定を含む具体的な規程の作成については、社会保険労務士や弁護士にご相談ください。
顧客が「打ち切りは不当だ」と主張した場合はどうすればよいですか?
対応の記録が最大の根拠になります。警告の事実・時刻・内容、終話の理由を記録に残しておくことで、事後の主張に対して事実関係を示すことができます。個別の法的判断については専門家にご相談ください。
小規模事業者でも打ち切り基準を整備する必要がありますか?
労働施策総合推進法第33条の義務は労働者1人以上のすべての事業主に適用されます。企業規模による猶予や経過措置はありません。小規模事業者であっても、簡易な形であっても基準を文書化しておくことが求められます。 https://laws.e-gov.go.jp/law/341AC0000000132
電話を無言で切ることは問題がありますか?
終了の意思を告げずに無言で切ることは、後から「一方的に切られた」と主張される余地を残します。「本日の対応を終了します」と告げてから終話する手順を規程に定めることで、対応の正当性を記録上も明確にできます。 --- 本記事は2026年9月時点の法令・告示に基づく一般情報であり、個別の法的助言・判断ではありません。具体的な規程の作成や個別事案への対応については、社会保険労務士・弁護士等の専門家にご相談ください。